捉え方に際限はない。だから探究したくなる【ビジパン!09】取材後記

2024 / 07 / 04

捉え方に際限はない。だから探究したくなる【ビジパン!09】取材後記

構成/冨田愛純

撮影/冨田愛純

ときどき出会う、好きを仕事に、まるでピーターパンのような目で働く大人。そんな”ビジネスピーターパン”の、踏み出した過去に焦点を当てて取材する新企画『ビジパン!踏み出す前の自分へ、今だから伝えられること』が、公式YouTubeにてスタート!ここでは、取材した編集者が、ビジパンから感じたことや学んだことを取材後記として展開。今回取材したビジパンは、和歌山市の中心に位置するディープレトロな雰囲気漂う「わかやまじゃんじゃん横丁」にお店を構える喫茶店〈珈琲もくれん〉のマスターである村上洋一さん。

珈琲もくれん

マスター

村上洋一

1976(昭和51)年、大分県生まれ。高校卒業後、京都で木工職人として働き、岐阜に移って造園業などの仕事を経て、和歌山市に移住。昭和30年代に開業した「わかやまじゃんじゃん横丁」のリノベーションに携わり、同施設内で1999年に「珈琲もくれん」をオープン。2012年に店舗を拡張してリニューアル。 オープン以来25年間、お店に立ち続ける愛されマスター。


25年続けてきた理由。それは、折り合いの末…だった?


『一言で言ったら、”折り合い”をつけているだけなのかもしれないんですけど。』 


長年何かを継続されている人って、自身の支えとなる一つの揺るぎない信念とか確固たるスタイルを持っているから、長く続けられているのだと思っていた。


だから、和歌山市で25年以上愛される喫茶店〈珈琲もくれん〉のマスター村上洋一さんに「お店を続けられている理由」を聞いて、上の言葉が返ってきた時、唖然としてしまった。理解できなさすぎて、寝落ち寸前に「お風呂入ってよ」と母親に言われた時と同じくらい深いシワを眉間に寄せてしまっていたと思う。(村上さんごめんなさい。) 


今回は、そんなシワをあと何十本と寄せることになった、私にとって悔しさが残りながらも、自分の弱みが露わになった非常に学びの多い取材でもあった。


言い切らない男 VS 言い切ってほしい女


閉店後の22時過ぎ。温かみ感じる木の扉を抜けた先に、サスペンダーを付けて、思わず口元がゆるんでしまう”ひょうきんな笑顔”で迎え入れてくれた村上さん。1999年に留守番で始められて以来、朝から晩までカウンターに立ち、珈琲を淹れ、お客さんたちとの会話を楽しまれているんだとか。 


取材冒頭、「火で沸かした方がいいなぁ〜と思って」と、やかんといい感じに年季の入った(入ってなかったらすみません)コンロを見せてくれた村上さん。よく見ると、カウンターの背後には、コーヒー豆の名前(おそらく)が書かれた缶がズラーっと並び、その横には大きな焙煎機もある。自然と「珈琲にこだわりが?」と聞いていた。すると、『そのへんも、難しくてですねぇ〜。笑』と返ってきた。 


先にお伝えしておこう。村上さんという人は、どんな問いに対しても、一言で言い切ることをされない方だ。例えば、 


Q.今までどうにもならなかった壁は?

A.今のところどうにもなってないけど、どうにもならなかったことにまだしてないことはあるかも…
Q.突然お店を失ってしまったらと怖くなることは?

A.板とやかんとドリッパーがあったら、また珈琲屋はできるかも。って思ってるんですけどぉ、案外すぐにバイトに行っちゃうかもしれないし…


編集者としてまだまだ修行中な私は、この白黒ハッキリつけられない返しにかなり苦戦し「お願い!今度こそ言い切ってくれ!」と何度も心の中で願っていた。取材直後のメモには、”こんなに消化不良で終わった取材はなかった。矛盾しまくりで灰色みたいな人。”と記していた。 


表層だけを捉えて、満足してしまっていないか


しかしその後、村上さんのご友人(=谷本さん)への取材を通して、頭の中にかかっていた灰色のモヤが時間をかけて薄まっていく感覚があった。村上さんは、私を混乱させたかったわけでも筋が通っていない人でもなく、あらゆる角度・立場から物事のあり方を捉え続けようとされる方なのだと。だからこそ、私の質問に対しても、その時の村上さんが考えられ得る多面的な視点で応えようとしてくれていたのだ。


そんな村上さんの在り方が1番表れていたと思うのが、珈琲の美味しさについて話してくれたあの場面。『飲んでくれた人が美味しいって言ってくれたら正解。だけど、模範解答はないなって。』なんとなくのニュアンスは掴めなくないが、この言葉に一切の違和感を感じないと言ったら嘘になる。きっとそれは、私が今まで自分にとって編集のしやすい表層だけを摂取して満足してきた、なんとも薄っぺらい人間だからだと思う。



が、これは少しばかり時代のせいにしたい気持ちもある。検索すれば一瞬で答えに辿り着けてしまう。脳ミソをさほど稼働させなくても頭に入ってくる”切り取り”が世の中に溢れかえり、それだけで自分がアップデートされたような優越感に浸れる。そんな環境で、むしろ村上さんのように、寄り道したり時間をかけてでも物事の深層を捉えようと思えている人の方が少ないのではないだろうか。(特にデジタルネイティブな世代は)


そんな大量の情報をただただ処理し続けるような毎日から、ほんのひと時だけでも距離を置いて、村上さんと村上さんが作り出す空間にどっぷり浸りたいというお客さんが、後を絶たないのではないだろうか。


今日この日まで、この場所で立っている。それが幸せ


しかし、あの言い切らない男(=村上さん)が、取材中に一度だけ言い切ってくれたことがある。『この場所で、仕事してるのは、ある意味幸せです。この場所で、こんな感じで、立ってるから。』


25年間続けてこられた理由が、たとえ何かしらに折り合いをつけてきた結果であったとしても、今日この日まで〈珈琲もくれん〉に立ち続けていられることに、村上さんは幸せを感じているのだ。


残念ながら取材後記を書く今になっても、この”折り合い”の真相は究明できてはいない。でも、分からない・言語化できないというもの、きっと今の私にとっての一つの捉え方だし、そもそも当の村上さんはそこまで深い意味合いで放たれたワケじゃないのかもしれない。笑  それに、人が止めれなくなるほど夢中になってしまうものって、案外「これ!」といった明確な理由がないみたいなことも、大いにあるのではないかとも思うのだ。


取材動画はこちら☟


和歌山市移住定住支援サイトはこちら☟
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/ijuteiju/index.html

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