素材の良さを活かした”日常的な料理”で、食生活が豊かになるきっかけづくりを 【こんな生き方もあったのかvol.7】

2023 / 07 / 27

素材の良さを活かした”日常的な料理”で、食生活が豊かになるきっかけづくりを 【こんな生き方もあったのかvol.7】

構成/冨田愛純

撮影/冨田愛純

和歌⼭市で⾃分らしく活動している⼈を通して、全国に和歌⼭市の魅⼒をお届けしたい。
そんな想いから⽴ち上がったインタビュー企画「こんな⽣き⽅もあったのか」では、その
⼈が辿ってきた道のり、これまでの⼈⽣を振り返って思うこと、さらには今後実現していきたいことに迫ります。今回は、2020年に東京から和歌山市へ移住し、世界の家庭料理が楽しめる街の食堂「green by」のオーナーシェフである尾形晋代さんにお話をお伺いしました。建築から料理の道へ進み、東京の2つ星レストランを経て和歌山市で街の食堂をオープンした尾形さんにとって、自分らしい人生の歩み方とは。

green by

オーナー

尾形晋代

辻調理学校卒業後、フランスで1年間の修行を経て、東京にある2つ星レストラン「ナリサワ(NARISAWA)」で4年間コックとして勤務。子どもが生まれたタイミングで、企業系カフェの商品開発に携わり、2020年11月世界の家庭料理が楽しめる街の食堂「greenby」を、和歌山市にオープン。


地元民の舌が肥えた和歌山で、“素材の良さ”を活かすことにこだわる 


和歌山は、お魚はもちろんお野菜もすごく美味しくて、特に”山椒”は世界的にも注目されているんです。和歌山県紀美野町にある「キミノーカ」っていう有名なジェラート屋さんが山椒の生産もされていて、私が前に働いていた「ナリサワ(NARISAWA)」では、そこの山椒を使っているんです。和歌山県岩出市の「ヴィラ・アイーダ(Villa AiDA)」っていう自家菜園や地場の食材を使用しているレストランも、『アジアのベストレストラン50』に選出されていて、世界的にも和歌山の食材は注目されていると思います。 


ただ、食材そのものが良いということは、地元の方の舌もそれだけ肥えていることになるので、和歌山で飲食店を続けていくのって結構難しいと言われているんです。実際にうちのお店の常連さんからも、「手を加えすぎて不味くなっているお店も多い」「このソース要らないなって感じることもある」といった声を聞くことがありますね。なので、食材の良さを殺さずに、素材そのものに真摯に向き合うことが、和歌山の人には一番受け入れられやすいのかなと。 


最近は、「とりあえず映えれば」といったお店も増えてきているかなと思うんですけど、うちは見た目から料理を作るということは絶対にしていなくて。メインの食材を”いかに際立たせるか”を突き詰めていくと、自然と食材の切り方やサイズ、副食材の組み合わせは決まっていきます。そういう風に考えて料理するのが自分でも楽しいですし、それがお客さんに伝わって「こんな風に味が変わるんや」「こんな組み合わせで美味しくなるや」って体感してもらえると嬉しいですね。 


この日のランチメニューは、和歌山県串本町の”ケンケン釣りカツオ”のあぶりしょうがソース


自分と本気で向き合い辿り着いた”没頭できる世界” 


もともとは環境や空間デザインに興味があって、建築の大学に進学したんですけど、次第に「私がほんまにやりたいことは建築なのかな」と思うようになったんです。当時は、課題に本気で取り組む周りの学生がキラキラして見えて、自分も何か楽しめること・好きなことを見出さないとって不安でしたね。


そんな時に、フランス中西部オーブラック地方にある3つ星レストラン「ミシェル・ブラス」の存在を知って、そこの代名詞ともいえる”ガルグイユ”という料理に感銘を受けたんです。その土地の野草や香草をモチーフに作られた料理で、50年以上前からあるんですけど、世界中の人に驚きや影響を与え続けていて。 


この料理を知ったこともきっかけになって、建築の大学を中退して料理の専門学校に行きました。当時は、周りと違う道に進むことよりも、中途半端な気持ちのまま生きていくことの方が不安だったので、「もう料理が私の行く道だ!」って半分自分に言い聞かせていたところもあったのかなと。そこから必死で勉強していくうちに料理に没頭していって、今は自分のお店でやりたいことができているので、あの時「このままじゃあかん」って自分と向き合えたことは、人生でも大きな転機だったと思います。もちろん今でもしんどい部分はあるんですけどね(笑) 


料理学校を卒業した後はフランスで1年間修行をして、帰国後すぐ東京にある「ナリサワ(NARISAWA)」に入りました。そこで4年間働いていたんですけど、子供が生まれたタイミングでコックを続けるのが難しくなって、不動産会社が経営する企業系カフェの商品開発に携わりました。それはそれで楽しかったんですけど、雇われの立場からもう少し責任のあるポジションでやってみたいと思うようになったんですね。それで、主人の出身が和歌山市ということもあって、元栄養士だったお義母さんと一緒に「green by」を始めました。 


尾形さんのご主人が設計された開放的な店内


「日常的な料理に美味しさを感じてもらう」 そこに価値がある 


オープン当初は、子どもを寝かしつけてから朝の4時ぐらいまで、仕込みや商品開発と大変な時期もありました。企画は頭で商品開発は口、運営は手と、1人で3部署みたいな感じなので。単に商品開発といっても、ただただ手の込んだ料理を出せばいいというわけではなくて、人員と営業時間そして仕込み時間の3つをトータル的に考えて、ワークバランスを崩さない商品開発が必要なんです。今でも、自分が”やりたいこと”と”やらないといけないこと”のバランスを上手く取らないとって必死で、しばらく思考停止している時もあります笑 


それでもやっぱり、お客さんからキッチンの方に向かって「美味しかった」「ありがとう」って言ってもらえると、本当に嬉しくてそれだけで1週間は生きていけますね。もちろん仕事なのでお金を稼ぐことは大事なんですけど、自分的には料理=労働っていう意識はあまりなくて。自分が好きなことをやって、タイムリーにお客さんからフィードバックをもらえて、もうそれだけで「やったー!ありがとうございます!」って感じなので、こんなにいい仕事はないのかなと。 


東京にいた時は、コックとサービスが完全に分離されたガチガチのレストランだったので、お客さんの”生の声”はあまり聞けなかったんですね。それにお客さんからすると”非日常感”を楽しみに来られるレストランだったので、その分客単価も大きかったんですけど、そういう非日常な空間にある食事ってどこまで行っても非日常で。私はそれよりも、毎日気軽に来てもらえて、「日常的な料理でもこんなに美味しいんや」って感じてもらえる方が幸せだなと思ったんです。一般的なお値段で美味しく味わっていただく、そこに価値があるのかなと。 


「green by 」オーナーの尾形さん


飲食を通して、人の食生活が豊かになる”食育”に関わっていきたい 


食べに来てくれたお客さんに、”良い意味で影響を与えていけるお店”になっていければと思っています。この前高校生が4人ぐらいでお店に来てくれて、ちょっと走ったら700円でファミレスのハンバーグを食べられるのに、美味しさを求めて1200円するうちのハンバーグを頼んでくれたんですよ。その子たちにとって、この”食事を選ぶ”っていう経験は、単なる「美味しいハンバーグを食べた」だけでは終わらないと思うんですね。「自分で美味しいハンバーグを作りたい」とか、その子たちがお母さんになった時に、「家族に健康的な食事を食べさせたい」って、自分と周りの食生活が豊かな方向に変わるきっかけになるはずなんです。 


そうやって”食”について考えていくことが、結果、低農薬の小規模農家さんや地元の産業をサポートしようという動きにも繋がっていくと思います。飲食業界って飽和状態で、ただでさえ生き残るのが厳しい世界なんですけど、コロナ禍でさらに多くのお店が閉店したんです。その環境下でも、うちの料理を評価し続けてくれるお客さんがいたから、今も「green by」を続けられていて。やっぱり今後生き残っていくためには、単に「可愛い」「美味しい」で終わりじゃなくて、社会的な問題も見据えることが重要になってくると思います。 


将来的には、引き続き飲食がベースであることには変わりないんですけど、”食育”にもしっかり関わっていきたいんです。”食育”って飲食店が意識して取り組んでいかないといけないし、人の食文化が発展するきっかけづくりになるので、今のうちに飲食以外の幅広い知識も勉強してきたいと思っています。これは和歌山に限った話じゃなくて、今はSNSもあるのでいろんな媒体を通して、自分が吸収してきたことを、子どもや若い世代に発信できる人になれたらなと。 



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http://www.city.wakayama.wakayama.jp/ijuteiju/index.html

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